「大洪水によって世界が滅び、一族だけが生き残る」「死んだ妻を追って黄泉の国へ行くが、見てはいけない禁忌を破ってしまう」
これらとよく似た物語を、日本の神話でも、ギリシャ神話でも、あるいは遠く離れた中南米の神話でも聞いたことはありませんか?このように、世界各地の神話に共通して見られる特定のパターンを「神話類型」と呼びます。
1. なぜ神話は似通うのか?
神話が世界中で似通う理由については、主に2つの学説があります。
- 伝播説(でんぱせつ): 古代の人々の移動や交流によって、一つの物語が各地へ伝わっていくうちに変化したという考え方。
- 心理学的普遍性: 心理学者ユングが唱えたように、人類共通の「無意識の底(集合的無意識)」に同じイメージの源泉があり、それが各地で同じような物語として結晶化したという考え方。
2. 代表的な神話類型の例
世界中で特によく見られる代表的なパターンをいくつかご紹介します。
見るなのタブー型
見てはいけないという約束を破り悲劇が訪れる話。旧約聖書では、ロトの家族がソドムから脱出する際、ヤハウェの使いから振り返るなと言われたが、ロトの妻が振り返ったため塩の柱にされた。
ギリシャ神話では、ゼウスから開けるなと言われた箱(壺)をパンドラが開けたため、中から飛び出した災いが世界中に広がった(パンドラの箱)。ちなみに、禁止事項を破りたくなる現象をカリギュラ効果という。
カリギュラ効果:https://nanikanochishiki.blogspot.com/2021/10/blog-post_19.html
メルシナ型
人間ではない存在を妻に迎えるが、見るなのタブーを破り離別する話。フランスの伝承では、レイモンがメルシナを妻に迎えた際、土曜日に自分の姿を見るなと言われたが、レイモンが覗き龍の姿のメルシナを見たため妻が去った。
日本神話では、ホオリがトヨタマヒメを妻に迎えた際、出産の様子を見るなと言われたが、ホオリが覗き竜の姿のトヨタマヒメを見たため妻が去った。
オルフェウス型
妻を死後の世界から連れ戻す時、見るなのタブーを破り失敗する話。ギリシャ神話では、亡くなった妻エウリュディケを連れ帰るために夫オルフェウスが冥府を訪ねた時、冥界を出るまで背後の妻を見てはならないという条件を破ったため、妻は冥界に連れ戻された。
日本神話では、亡くなった妻イザナミを連れ帰るため夫イザナギが黄泉の国を訪ねた際、イザナミから部屋を覗くなと言われたがイザナギが覗き、変わり果てた姿のイザナミを見たため二人は絶交した。
アンドロメダ型
英雄が怪物から女性を救い妻に迎える話。 ギリシャ神話では、ペルセウスが怪物を倒し、生贄として捧げられていたアンドロメダを妻に迎えた。日本神話では、スサノオがヤマタノオロチを倒し、生贄として捧げられる予定だったクシナダヒメを妻に迎えた。
ハイヌウェレ型
ある者の死体から人類に食物がもたらされる話。インドネシア神話では、財宝を排泄するハイヌウェレという女性を気味悪がった人々が生き埋めにして殺した後、死体を掘り返し断片に分け土に植えると食物が生まれた。
日本神話では、空腹のスサノオがオオゲツヒメに料理を作ってもらった際、食物がオオゲツヒメの身体中から排泄されたものだと分かったスサノオは、怒ってオオゲツヒメを殺した。するとその死体から蚕と五穀が生まれた。
ニムロッド型
神に矢を放ち反対に矢で射抜かれる話。メソポタミアの伝承では猟師のニムロッドが神に矢を放ち、神がその矢を返しニムロッドの胸を貫いた。日本神話ではアメノワカヒコが神の使いのキジを矢で貫き、アマテラスがその矢を返しアメノワカヒコの胸を貫いた。
バナナ型
二者択一の結果、人間の寿命が決まった話。インドネシア神話では、初め神が人間に石を与えたが、人間が別のものを欲したため代わりにバナナを与えた。神は、石を選んでいたら不老不死になったと告げた。
旧約聖書では、エデンの園には生命の樹と知恵の樹があり、アダムとイブは知恵の樹を選んだため、エデンの園から追放され不老不死となる生命の樹の実を食べることができなくなった。
呪的逃走型
呪術で追っ手から逃れる話。 旧約聖書では、モーセがイスラエルの民とエジプトを脱出する際、海を2つに割り逃げた。エジプト神話では兄インプが無実の罪の弟バタを追いかけていた際、太陽神が現れ2人の間にワニのいる池を作り、弟は兄のもとを去った。
宇宙卵型
卵から宇宙が誕生した話。インド神話では、創造神ブラフマーが卵を割って天地を創造した。フィンランド神話では、カモの卵から天地が創造された。
神罰洪水型
神罰で洪水が起きた話。旧約聖書では神がノアに船を作らせ、その家族と動物以外を洪水で滅ぼした。バビロニアのギルガメシュ叙事詩では神がウトナピシュティムに船を作らせ、その家族や動物以外を洪水で滅ぼした。どちらも鳥を放ち水が引いたのを確認する。
生み損ない型
長子が奇形で捨てられる話。ギリシャ神話では、ゼウスとヘラの長子へパイストスが奇形だったため海に捨てられた。日本神話では、イザナギとイザナミの長子ヒルコが奇形だったため川に捨てられた。
まとめ:物語は人類共通の言語
神話類型を知ることは、私たちが「人間とは何か」を知ることに繋がります。文化や宗教が違っても、私たちは同じことに悩み、同じような希望を抱き、物語を語り継いできました。神話は単なる古いお話ではなく、今も私たちの心の中に流れる「共通の言語」なのかもしれません。
シリーズ:文化と精神の源流を探る
キーワード:神話類型, 比較神話学, ヒーローズ・ジャーニー, 集合的無意識, 大洪水神話, 禁忌