動物裁判とは、主に中世ヨーロッパで行われていた動物が当事者の裁判のこと。
背景
中世ヨーロッパでは、神意によって善悪を判断する裁判(神判)が行われていた。神意の確認方法には、火審、水審、聖餐審、決闘審、クロス審等がある。このように、当時ヨーロッパの裁判は宗教の影響を強く受けていた。
火審(熱鉄審)
熱湯の中の指輪を素手で取り、やけどの状態が軽ければ無罪、重ければ有罪となる。熱した鉄を握らせる方法等もある。
水審
手足を縛り水に沈め、浮けば有罪沈めば無罪となる。魔女狩りの際に多く用いられた。これは魔女は空を飛ぶために軽いとされていたため。
聖餐審
パンやチーズを飲み込み、喉につまらなければ無罪となる。
決闘審
決闘の勝者が勝訴となる。
クロス審
手を水平に伸ばし十字架の形を取り、先に腕を下げた方が敗訴となる。
キリスト教の考え
旧約聖書の出エジプト記21章28節には、牛による殺人は牛の罪となり持ち主の罪ではないとの記述がある。このことから、動物の罪は動物自身が償うという考えがあったとされる。また、悪魔が人間や動物に変身し悪行を働くということも信じられていた。
動物裁判の流れ
動物裁判の流れには大きく2種類ある。1つは人間と同様に逮捕、起訴、弁護人の専任、裁判の流れ。拷問もあったという。もう1つはネズミや昆虫等集団が対象の場合で、普段生息している場所を訪れ大声で出廷を命じる。裁判には欠席となるが弁護人はつく。
後者の場合、直接処罰ができないため退去命令を下した後、聖水の散布や呪いの言葉をかけ、破門とするのが通例。破門は当時のヨーロッパ社会で最大の罰とされ、ローマ王でさえも破門解除のためローマ教皇に赦しを願ったことがある(カノッサの屈辱)。
判例
以下に現代も含む裁判の事例を示す。
昆虫
1120年、フランスで毛虫がブドウ畑を荒らした罪で裁判にかけられた。裁判所は毛虫に破門判決を下した。1587年、フランスでゾウムシがブドウ畑を荒らした罪で裁判にかけられた。詳細は不明だがゾウムシのために新しい土地を準備する記述が残っている。
ブタ
1457年、ブタ親子が幼児を食い殺した罪で裁判にかけられた。裁判所は母ブタに死刑判決を下したが、子ブタは証拠不十分と未成年を理由に無罪とした。1494年、フランスでブタが赤ん坊を食い殺した罪で裁判にかけられた。裁判所はブタに死刑判決を下した。
鶏
1474年、スイスで雄鶏が悪魔的で不自然な産卵の罪で裁判にかけられた。裁判所は雄鶏に死刑判決を下した。
モグラ
1510年、イタリアでモグラが畑を荒らした罪で裁判にかけられた。弁護士はモグラが害虫を食べる有益な動物と主張し、裁判所はモグラに代替地の提供と安全通行権の授与、妊娠しているモグラと子供のモグラには14日の猶予期間を与えた。
ネズミ
1510年、フランスでネズミが畑を荒らした罪で裁判にかけられた。弁護士はネズミが出廷する際、猫や犬に襲われ命を危険にさらす可能性があると主張し、裁判所は裁判の無期限の延期を決定した。
牛
1621年、ドイツで牛が女性を押し倒し殺害した罪で裁判にかけられた。裁判所は牛に死刑判決を下した。
ロバ
1750年、フランスで男性とロバが獣姦の罪で裁判にかけられた。証人によってロバの普段の行儀のよい振る舞いが証言されたことで被害者と認められ、無罪となった。男性は死刑となった。
ウサギ
1995年、日本でアマミノクロウサギ等の動物の代理人(自然保護団体)が、森林伐採禁止等の自然保護を求め裁判をおこした。日本の法律では動物が原告にはなれないため、裁判所は訴えを却下したが、国民の目を集め自然保護団体の狙いはある程度達成された。
猫
2006年、アメリカで猫が複数の人を傷つけた罪で裁判にかけられた。裁判所は猫に接近禁止命令を下し自宅軟禁となった。
熊
2008年、マケドニアで熊が養蜂家から蜂蜜を盗んだ罪で裁判にかけられた。裁判所は熊に14万デナール(約35万円)の損害賠償の支払いを命じた。熊は野生で所有者がいなかったため、保護動物に指定している国が損賠賠償を支払うことになった。
猿
2015年、アメリカでクロザルの代理人(動物保護団体)が、クロザルの自撮り写真の著作権がクロザル自身にあると訴え裁判を起こした。裁判所は、著作権は動物には適用されないとして、訴えを却下した。
2017年、アメリカでチンパンジーの代理人(動物保護団体)が、人間と同じ権利を求め裁判をおこした。裁判所は、チンパンジー自らが行動に法的責任を持つことは不可能として、訴えを却下した。
無生物の裁判
無生物に対しても裁判は行われている。古代ギリシャでは、像が落下して人を殺したとして有罪判決を受け海に投げ込まれた。1591年ロシアでは、王子が死亡した際に祝福で鳴らされた鐘が反逆罪でシベリア送りになった。
0 件のコメント:
コメントを投稿