適用違憲とは、法令自体は合憲だが当該訴訟への適用が違憲となった判決のこと。
概要
憲法とは国家統治の基本ルールのことで、法律や命令よりも強い効力を持つ。つまり、憲法に反する法令を作る事はできない。ある法令が憲法に反しているか否かを判断する権限は最高裁にある。
但し、ただ単にある法令が憲法に反するという訴えを起こすことはできない。あくまで原告側が権利の侵害等を訴えた場合に裁判が開かれる。
違憲判決の種類
違憲判決は大きく2種類ある。
法令違憲
法令が違憲となった判決のこと。法令違憲となった場合、ただちにその法令が廃止されるわけではない。なぜなら立法は裁判所(司法)ではなく国会が行うため。但し、裁判でその法令が適用されることは無くなるため事実上死文化する。
法令違憲:https://nanikanochishiki.blogspot.com/2021/10/blog-post_17.html
適用違憲
法令自体は合憲だが当該訴訟への適用が違憲となった判決のこと。広義では処分違憲も含まれる。処分違憲とは法令の適用ではなく処分の行為が違憲となった判決のこと。この場合、憲法と法令ではなく憲法と処分行為の関係が争点となる。
判例
主な適用違憲判決を以下に示す。
自白調書有罪認定違憲判決
1950年、最高裁は被告人の第1審公判と司法警察官の尋問調書中のそれぞれの供述、自白を互いの補強証拠とすることは、憲法第38条(自白の証拠能力)に反するとした。憲法第38条では、自白が唯一の証拠の場合は有罪にならないとしている。
強制調停違憲決定
1960年、純然たる訴訟事件において、最高裁は戦時民事特別法第19条および金銭債務臨時調停法第7条を適用し調停にかわる裁判を非公開とすることは、憲法第32条(裁判を受ける権利)と憲法第82条(裁判の公開)に反するとした。
純然たる訴訟とは、当事者の主張する権利があるかどうかを争う訴訟のこと。たとえば遺産分割の割合でもめる場合は、当事者が相続の権利を有すことが前提となるため純然たる訴訟とは言えない。
第三者所有物没収事件
1962年、密輸出が発見され当事者でない第三者の貨物が国に没収された事件において、最高裁は第三者に告知、弁解、防御の機会なく関税法第118条(犯罪貨物の没収)を適用することは、憲法第29条(財産権の保障)と憲法第31条(法廷手続の保障)に反するとした。
余罪量刑考慮違憲判決
1967年、最高裁は起訴されていない犯罪で、かつ被告人の自白以外の証拠がないものを余罪と認定し重い刑を科すことは、憲法第31条(法廷手続きの保障)と憲法第38条(自白の証拠能力)に反するとした。
偽計有罪自白認定違憲判決
1970年、検察官が被告人に対し、被告人の妻が共謀を自供したとうその情報を伝え、被告人から自白を引き出した事件において、最高裁は偽計によって心理的強制を受けた自白の採用は憲法第38条(自白の証拠能力)に反するとした。
高田事件
1972年、 被告人の他の事件の裁判によって15年間審理が中断されていた高田事件において、最高裁は長年にわたり審理を行わないことは憲法第37条(迅速な裁判を受ける権利)に反するとした。
愛媛県靖国神社玉串料訴訟
1997年、愛媛県知事が靖国神社に対し公費で玉串料を支出した事件において、最高裁は特定の宗教団体の援助、助長、促進になると判断し憲法第20条(政教分離)に反するとした。この訴訟の判断には目的効果基準が適用された。
目的効果基準とは、日本社会と深く結びついた宗教を国家が完全に分離することは不可能なため、宗教的意義や行為が援助、助長、促進、圧迫、干渉になるかどうかを判断するという基準のこと。
たとえば1997年の津地鎮祭訴訟では、三重県津市の市立体育館建設の際に行われた地鎮祭が憲法第20条(政教分離)に反するかどうか争われたが、最高裁は目的効果基準を適用し限度を超えたものではないと判断、合憲とした。
砂川政教分離訴訟
2010年、北海道砂川市が神社に市有地を無償で貸し出した事件において、最高裁は特定の宗教団体の援助になると判断し憲法第20条(政教分離)と第89条(公の財産の支出又は利用の制限)に反するとした。
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