チェルノブイリ原発事故とは、1986年4月26日にソ連チェルノブイリで起きた原子力事故のこと。
原子力事故として史上最悪の被害となった。
予備知識
核分裂の仕組み
ウランの原子核が中性子を吸収すると、ウラン原子が核分裂し熱と複数の中性子が発生する。これら中性子がまた別のウラン原子核に吸収されることで核分裂が連鎖する(核分裂連鎖反応)。
原子力発電の仕組み
原子力発電は、原子炉で核燃料(ウラン)を核分裂させ、発生した熱を利用して水(冷却水)を沸かし、その蒸気の力でタービンを回し発電する。その後蒸気は冷却され水となり、循環ポンプで再び原子炉に送られる。原子炉の核分裂は減速材と制御棒で制御される。
減速材
減速材とは、核燃料が核分裂しやすくするために中性子を減速させる材料のこと。材料には水や黒鉛等がある。
制御棒
制御棒とは、核燃料が核分裂しにくくするために核燃料の代わりに中性子を吸収する材料のこと。原子炉内に数100本挿入でき、入れると核分裂が抑制、抜くと核分裂が促進される。材料にはカドミウム等がある。
チェルノブイリ原発の構造
チェルノブイリ原発にはソ連の原子炉RBMKが採用されていた。RBMKは、減速材となる黒鉛ブロック内を核燃料と冷却水の入った圧力管が通る。特徴は、核分裂を自然に安定させる働き(自己制御性)がないこと。
そのため出力減少時に核分裂が抑制、出力増加時に核分裂が促進され原子炉が不安定になる。この特性は正のボイド効果ともいわれ、低出力運転時ほど影響を受けやすい。
背景
ソ連チェルノブイリ原発は、地震等で電源が喪失した時のために非常用電源が備わっていた。しかし、非常用電源の起動には約40秒かかる。そこで4号炉の計画停止に併せ、電源喪失から40秒間タービンの惰性回転の力で運転可能か試験を行うことになった。
事故の経過
4月25日1時
熱出力320万kWから降下を開始した。
4月25日14時
低出力試験中の誤作動を防ぐため、非常用炉心冷却装置(ECCS)を切った。このまま出力を降下させる予定だったが、キエフ給電指令所の要請で運転を継続させることになった。
4月25日23時
出力降下を再開した。この時低出力での運転を続けていたため、原子炉内に中性子を吸収し核分裂を妨げるキセノン135が蓄積していた。キセノン135の蓄積により出力が低下する現象をキセノンオーバーライド(キセノン毒)という。
4月26日0時28分
熱出力50万kWで出力制御方式を切り替えた時、設定ミスがあり3万kWまで急激に出力が低下した。この時、キセノン毒により思うように出力が上がらなかったため、最低挿入本数の規則を無視しほとんどの制御棒を引き抜き出力の回復を試みた。
4月26日1時
熱出力が20万kWまで回復し安定したため、当初予定していた70万kW以上での試験はあきらめ、試験を進めることにした。この時、循環ポンプを2台追加し8台にしたことで、圧力管への冷却水流量が増加し蒸気が減少、圧力バランスが崩れた。
そのため、不安定な状態でも試験が行えるよう緊急停止信号(スクラム信号)を切った。
4月26日1時23分4秒
タービンへ送る蒸気弁を閉じ試験を開始した。その結果、循環ポンプの回転数が落ち、冷却水流量の減少で圧力管の温度が上がり、ボイド(気泡)が増加した。これにより冷却水による中性子の吸収が減少し、反応が促進された(正のボイド効果)。
4月26日1時23分40秒
急激な出力上昇を察知した運転員が、 制御棒一斉挿入ボタンを押した。RBMKの制御棒は下部に黒鉛を有する。挿入時、ほとんど中性子を吸収しない黒鉛が中性子を吸収する冷却水を押しのけることで、さらに反応が進み出力が増加した(ポジティブスクラム)。
4月26日1時24分頃
温度上昇により圧力管が破損し、中の冷却水が黒鉛ブロックに触れ水蒸気爆発が起こった。この爆発により原子炉建屋の上半分が吹き飛び、放射性物質が周囲に飛散した。
4月27日
スウェーデンの原発で高線量の放射性物質が検出されたため、スウェーデン当局が調査を開始、発生元をソ連方面と特定した。ソ連では住民避難が始まったが情報は隠されていた。
4月28日
スウェーデンの問い合わせに対し、ソ連が原子力事故を公表した。
事故の原因
事故の原因としては、正のボイド効果やポジティブスクラム等の原子炉構造上の欠陥、ECCSやスクラム信号等の安全装置の無効化、規定以上の制御棒の引き抜きや低出力運転等の規則違反、キセノン毒やポジティブスクラム等に対する知識不足等がある。
事故の影響
事故処理にあたった消防士や解体作業者(リクビダートル)は、十分な説明や装備もなく数十人が死亡、数十万人が被ばくした。事故対応の甘さを重く見たソ連の最高指導者ゴルバチョフは、民主的な情報公開(グラスノスチ)を推し進め、ソ連崩壊につながった。
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